【レポート】BUIDL 2025 Satoshi Stage
BITCOIN JAPAN 2025のDev Dayとして、Fulgur Venturesが東京で初開催した、ビルダーのためのテックカンファレンス「BUIDL」
本イベントはメインカンファレンス前日に開催された、技術領域にフォーカスしたDev Dayです。
「東京で、つながり、語り、つくる」というテーマのもと、開発者・デザイナー・起業家などのビルダーが集い、アイデアの共有やコラボレーションを通じてビットコインの未来を見据える場となりました。
本記事では当日行われたSatoshi Stageの全7セッションを紹介します。
なお、Nakamoto Stageについては別記事にてまとめています。【レポート】BUIDL 2025 Nakamoto Stage
Wallet of Satoshiだから語ることができるライトニングの現実
Daniel James
CEO
Wallet of Satoshi
ライトニングを日常で使うとはどういう体験なのか、実例を交えて語られました。登壇者は、ウォレットは常時触るものではなく、支払いの瞬間だけ素早く使える存在であるべきだと強調します。支払いが「速く感じる」ためのUI演出や、自己保管でもストレスを減らす設計思想が紹介され、技術よりも体験を優先する姿勢が印象的でした。ライトニングを現実に根付かせるための、実践的な工夫が詰まった内容でした。
XPUB再利用のリスク:一般ユーザーが安全にビットコインを使うために

Kevin Loaec
CEO
Wizardsardine, Liana
ウォレット開発者の立場から、XPUBの再利用が引き起こす問題について、ブレインストーミング形式で議論が行われました。登壇者は、HDウォレットによってバックアップの手間は大きく改善された一方で、導出パスや標準の乱立が新たな混乱を生んでいると指摘します。特にXPUBを複数のウォレットで使い回すことで、支出時に公開鍵が露出し、異なるウォレット間の関連性が第三者に追跡されてしまうプライバシーリスクが強調されました。
こうした課題に対し、単なるXPUB管理ではなく、ディスクリプタを用いて「どの鍵をどの条件で使っていたのか」を明示的にバックアップできる設計の重要性が語られます。ただし、既存ウォレットやハードウェアとの互換性、UXの複雑化といった壁も大きく、明確な解決策はまだ見えていません。ユーザーに誤操作を強いず、かつ安全にウォレットを回転できる新たな標準が求められていることを強く印象づける内容でした。
SeedSigner──他のHWWと一線を画すオープンソースプロジェクトの全容

Seed
Project Creator, Leader
The SeedSigner Project ,BTC Hardware Solutions
ビットコインで何を作るべきかという問いから、このセッションは始まりました。登壇者は、自身が立ち上げたオープンソースプロジェクト「SeedSigner」の歩みを通じて、ビットコイン領域における“摩擦”をどう減らしてきたかを語りました。
USB接続や高価な専用デバイスへの不安、マルチシグ導入のハードル、サプライチェーンリスクなど、個人ユーザーが直面する課題を背景に、SeedSignerは市販部品を使ったDIY型の署名デバイスとして生まれました。QRコードによる署名や、異なるハードウェアを組み合わせる設計は、信頼の集中を避ける実践的な選択だと説明されました。
開発は一人から始まり、コミュニティの貢献によってUI改善や多言語対応が進み、日本語対応もその一つとして紹介されました。完璧な製品を目指すのではなく、現場の不便さを出発点に試行錯誤を重ねてきた姿勢が印象的で、ビルダーとして何に取り組むべきかを考えさせられる内容でした。
量子コンピューターとBitcoin

Shigeyuki Azuchi
CTO
chaintope, Inc
量子コンピューターはビットコインにとって本当に脅威になるのか、という問いから、このセッションは始まりました。登壇者は、量子計算の基本的な性質を整理しつつ、量子コンピューターが「高速に解ける問題」と「そうでない問題」が明確に分かれる点を説明しました。特に素因数分解や離散対数問題が量子アルゴリズムによって効率化される可能性があり、これが暗号技術に与える影響として議論されました。
一方で、現時点の量子コンピューターはビットコインの暗号を直ちに破れる段階にはなく、実際にリスクが高いのは公開鍵が既に露出している一部のUTXOに限られるという整理も示されました。その上で、将来を見据えた対策として、ハッシュベース署名や格子暗号など、量子耐性を持つ署名方式の研究動向が紹介されました。暗号の置き換えは署名サイズやスケーリングに影響を与えるため慎重な検討が必要ですが、過度に不安を煽るのではなく、現実的な時間軸で備えることの重要性が伝わる内容でした。
OP_CAT コベナンツ──DLCへの応用

Thibaut Le Guilly
Principal Engineer
Lava.xyz
会場では、OP_CATを用いたコベナンツとガバナンスの可能性について解説が行われました。OP_CATは単純にバイト列を結合する命令でありながら、支出先を制限するコベナンツを実現できる点が強調されます。これにより、鍵が漏洩しても資金が意図しない形で移動しない設計が可能になります。
さらに、DLC(離散対数契約)を例に、従来は大量の署名生成が必要だった複雑な契約が、OP_CATを使うことで大幅に簡素化できる点が紹介されました。ユーザー体験の改善やコード量削減といった利点がある一方、プライバシーや開発者体験の課題も指摘されます。ビットコインに新たな表現力とガバナンスの選択肢をもたらす技術として、今後の議論の広がりを感じさせる内容でした。
Arkade──プログラマブル・ファイナンス

Alex B.
Ecosystem Lead
Ark Labs
ARCプロトコルの実装である「Arcade」が、ビットコインのスケーリングを支払い以外の領域へ広げる試みとして紹介されました。登壇者は、ARCをトランザクションのバッチ処理技術と捉え、一方的な退出保証を備えた非保管型の設計を維持できる点を強調します。
Arcadeでは仮想UTXO(VTXO)を用いたオフチェーン実行が行われ、必要に応じてオンチェーンで決済する仕組みが採用されています。これにより、グローバルな状態を持たずに高いスケーラビリティを実現できると説明されました。実演ではLightningウォレットとの相互運用やクロスチェーンスワップ、貸付アプリのデモも行われ、ARCがビットコインネイティブな金融基盤になり得る可能性を感じさせる内容でした。
Utreexo が切り拓くトラストレスな世界

Calvin Kim
Bitcoin Protocol Developer
Opensats Grantee
ビットコインを本当の意味で「信頼せずに使う」ことの難しさから、このセッションは始まりました。登壇者は、フルノードを運用しなければ第三者を信頼することになる現状を指摘し、その障壁となっている高いストレージ要件や運用ノウハウの問題を整理しました。
そこで紹介されたのがUtreexoです。UTXOセットをコンパクトな証明に置き換えることで、ノードのデータ量を大幅に削減し、軽量な検証を可能にする仕組みだと説明されました。これにより、ウォレットにノード機能を組み込み、一般ユーザーでも取引とブロックを自ら検証できる未来が見えてきます。完全な解決には時間がかかるものの、分散性と検証性を取り戻すための現実的な一歩として、強い期待が感じられる内容でした。
